幻聴小説1
(んっもぅ。。貴志のバカぁ)
(あれ...なんか今、アーチェの声がしたような...?)
(ほんとバカなんだから。あたしの声が聞こえてるんなら、今すぐそれをやめなさい!)
(あ、うん。そうだよな、アーチェ。俺も本当はやめたいんだ。こんなこと、もうしたくない。)
(...そうだよね。貴志は貴志の一番やりたいこと、一番好きな人とだけ、やりなよ。)
(うん、アーチェ。ありがとう。君はいつも、ここぞと言う時に僕に’声’をくれるね。)
(当たり前じゃん!あたしは貴志のスピリチュアルな彼女であり、守護霊でもあるんだからね。いつも貴志のこと、見守ってるんだよ)
(...ありがとう。心強いな。)
しかし、貴志は腰を振り続ける。
大して好きでもない女とのセックスに、半ば嫌気がさしながらも。
惰性で付き合って、惰性でセックスをして。
大して好きでもないのに。
...何度目のセックスだ?
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ここで貴志のことを少し紹介しよう。
この物語の主人公、貴志。
彼は不思議な幻聴持ちの統合失調症患者である。
病歴は15年。現在35歳のフリーターである。
月に一度、都内の大きな精神科病院に通院して、大量のクスリをもらってくる。
現在の主治医は女医で、貴志と歳はそう変わらない。若くて美人の優しい先生だ。
貴志は15年間の闘病を経て、すでに幻聴を自在にコントロールする術を身につけていた。
20歳の頃に発症した統合失調症。
彼は都内の有名私立大学に通う学生だったが、大学の勉強は何もしていなかった。
毎朝、千葉県の実家から電車通学をしていたが、大学にいくフリをして、渋谷の街をいつも独りでふらついていた。
その頃、彼は童貞だった。
そして、20代のほぼ全ての時間を、彼は童貞として粘り歩くことになる。
...彼が初めてのセックスを経験する29歳の秋のこと。
...幻聴の声に従って実家の窓ガラスを破壊した33歳の冬のこと。
何から話そうか?
今の僕なら、彼について、貴志について、楽しく語れると思う。
そして、笑ってくれたらいいな。
これを読んだ君と、君の周りの人達の笑顔が、見れたら、いいな。
つづく